事例紹介

BPSを使った慢性腰痛の男性患者への対応

本記事の内容はフィクションです。症例やエピソードは説明を分かりやすくするためのものであり、特定の人物や実際のケースを示すものではありません。内容は教育・参考目的で作成されております。


初診時の訴え

患者は3年以上続く慢性的な腰痛を訴えて来院しました。症状は特に朝起きたときや長時間座った後に強く、運動やストレッチを試みたものの改善が見られないとのこと。これまで整形外科や接骨院を受診しても一時的な軽減しか得られなかったと述べています。


BPSモデルに基づく評価

1. バイオ(身体的要因)

  • 観察: 患者は骨盤が後傾し、腰椎の自然なカーブが減少している。股関節の可動域も狭く、ハムストリングスの過緊張がみられた。
  • 痛みの部位と特徴: 腰部中央から左右に広がる鈍痛。特定の動作(前屈)で悪化。
  • 検査結果: 特に重大な構造的異常は見られず、動作の癖が腰部への過剰な負担を引き起こしている可能性。

2. サイコ(心理的要因)

  • 患者の心情: 長年の痛みによる「この痛みは治らないのではないか」という強い不安。
  • 生活の影響: 痛みによるストレスで仕事の集中力が低下し、イライラすることが増えている。
  • 認知の偏り: 患者は「動くと悪化する」と考え、積極的に身体を動かすことを避けている。

3. ソーシャル(社会的要因)

  • 生活環境: 一日中座りっぱなしのデスクワークが中心。自宅では運動習慣がなく、通勤も車を使用。
  • 職場の影響: 最近仕事量が増え、残業が多いためストレスを感じている。
  • 家族関係: 痛みによるイライラが家庭内のコミュニケーションにも悪影響を及ぼしている。

治療アプローチ

1. バイオ的アプローチ

  • 手技療法: 骨盤周囲の筋膜リリースとハムストリングスの緊張緩和を実施。
  • 動作指導: 骨盤を中立位に保つための体幹エクササイズを指導。
  • ストレッチ: 股関節の柔軟性を高める動作(ヒップフレクサーストレッチ)を自宅でのセルフケアとして提案。

2. サイコ的アプローチ

  • 痛み教育: 「痛みは脳が危険を感じている信号」という考えを伝え、不安を軽減。
  • マインドフルネス呼吸法: 痛みに対する過剰な意識をリラックスさせるための深呼吸法を導入。
  • 成功体験の強化: 小さな進歩(痛みの軽減や可動域の改善)を強調して患者のモチベーションを高めた。

3. ソーシャル的アプローチ

  • 職場環境の調整: 1時間ごとに立ち上がってストレッチする「休息ルーティン」を提案。
  • 家族との連携: 家族に対して「患者を責めない環境づくり」の協力をお願いし、家庭でのストレスを軽減。
  • 運動習慣の提案: 週に1回ウォーキングを行う計画を立て、無理なく始められる運動を推奨。

経過

治療開始から4週間後、患者は以下の改善を報告しました:

  1. 朝の腰痛が大幅に軽減し、日中の痛みも減少。
  2. 職場での集中力が戻り、仕事のストレスが軽減。
  3. 家族との会話が増え、家庭内でのストレスが減った。

特に、「動くことへの恐怖」が薄れたことが大きな進歩として評価されました。患者は自主的に運動を取り入れ、現在もセルフケアを継続中です。


考察

この症例では、バイオ的な治療だけでなく、心理的および社会的要因へのアプローチが、患者の慢性腰痛の改善に大きく寄与しました。BPSモデルを活用することで、患者の生活全体を包括的に見る重要性が改めて確認されました。


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長島康之

長島康之

健康であれば、何でもできる。

長島康之 (ナガシマヤスユキ):柔道整復師(国家資格)。 株式会社nicori代表取締役(nicoriGYMとnicori整骨院を運営)。 現在はプロ野球球団の監督として采配をふるう、元プロ野球選手工藤公康氏の元トレーナー。

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