疼痛学

「治療」と「運動」で膝痛を解釈する

膝痛のケアには、症状の改善だけでなく、患者の身体的、心理的、社会的要因を包括的に理解し、痛みのメカニズムそのものにアプローチする必要があります。NicoriLABでは、BPS(バイオ・サイコ・ソーシャル)モデルと疼痛学の知見を基に、治療と運動を融合したアプローチを実践します。ここでは、40歳で2人の子どもを育てるママさんの膝痛を例に解説します。


ケース概要:40歳、2児のママさんの膝痛

  • 主訴: 半年間続く膝痛。階段の上り下りや長時間の立ち仕事で痛みが増す。
  • 背景: 日常的に家事や育児で膝に負担がかかるが、運動習慣はほぼなし。整形外科で「変形性膝関節症(OA)初期」と診断され、湿布や痛み止めで対処している。

1. NicoriLAB的なアプローチ:BPSモデルでの膝痛の理解

身体的(バイオ)要因

  • 主な課題:
    • 膝関節の炎症、筋力不足(特に大腿四頭筋と臀筋群)、柔軟性の低下。
    • 過剰な代償動作(ニーイン、膝の過伸展)が痛みを悪化させている。

心理的(サイコ)要因

  • 心理的ストレス: 長期間の痛みからくる「このまま悪化するのでは」という不安。
  • 認知の偏り: 「膝が悪いから運動すると悪化する」と思い込み、身体活動が減少。
  • 疼痛学的視点: 中枢感作(痛み信号が過剰に強化される状態)が関与している可能性。

社会的(ソーシャル)要因

  • 家庭環境: 育児や家事で忙しく、自分の健康を後回しにしている。
  • サポート不足: 家族や周囲からの手助けが少なく、ストレスが蓄積している。

2. NicoriLAB的なアプローチ:疼痛学を取り入れたケア

疼痛学の知見

  • 痛みの理解: 膝痛は単なる関節の問題ではなく、脳が痛み信号を過剰に受け取っている可能性がある。患者にこの仕組みを説明し、「痛み=ダメージ」ではないことを伝える。
  • 神経可塑性: 脳と体の神経ネットワークを再教育することで、痛みの閾値を下げる。

心理的ケア

  • マインドフルネス呼吸法: 痛みに対する過剰な注意をリセットし、リラックスを促す。
  • 患者教育: 膝痛のメカニズムを図解や例を使って説明し、不安を軽減。

3. NicoriLAB的なアプローチ:治療と運動の融合

初期フェーズ(治療中心 + 痛みの理解を共有)

  1. 炎症のケア: アイシングや物理療法で膝周囲の炎症を抑制。
  2. 動作パターンの修正: 簡単な動作指導で膝への負担を軽減(正しい立ち上がり方や階段の上り下りの仕方)。
  3. 心理的サポート: 痛みのメカニズムを説明し、「今すぐ改善しなくても、進行を抑える努力が大切」とポジティブな見通しを共有。

中期フェーズ(治療 + 運動)

  1. 筋力強化と柔軟性向上
    • 筋力強化: 大腿四頭筋、ハムストリングス、中臀筋を対象にヒップリフトやステップアップを導入。
    • 柔軟性改善: 太もも前後、ふくらはぎ、腸腰筋のストレッチを指導。
  2. 動作改善
    • 膝が内側に入るニーインを防ぐスクワットフォームを練習。
    • 足部(距骨)の安定性を高めるエクササイズを追加。
  3. 心理的アプローチ
    • 成果を見える化(痛みスケールや関節可動域の記録)し、小さな成功体験を強調。

後期フェーズ(運動中心 + 自立支援)

  1. 全身の連動を意識したトレーニング
    • 股関節と体幹を連動させたトレーニング(ダイナミックストレッチやファンクショナルトレーニング)。
    • 日常生活の動き(子どもの抱っこ、洗濯物干し)を模した実践的なエクササイズ。
  2. 患者教育とセルフケア
    • 簡単に継続できる運動メニューを提供し、家事の合間でも行える内容にカスタマイズ。
    • 定期的な自己チェック(姿勢、膝の動き)を習慣化。

おわりに

NicoriLABでは、BPSモデルと疼痛学の知見を活用し、膝痛に対する包括的なアプローチを提供します。このアプローチは、膝の炎症や筋力不足だけでなく、患者の心理的ストレスや社会的背景にも対応し、「痛みを取る」から「動ける体を作る」へと導きます。今回の事例のように、忙しいママさんが快適に生活を送れるようになるための治療と運動の連携が、患者にとって新たな希望となるでしょう。


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長島康之

長島康之

健康であれば、何でもできる。

長島康之 (ナガシマヤスユキ):柔道整復師(国家資格)。 株式会社nicori代表取締役(nicoriGYMとnicori整骨院を運営)。 現在はプロ野球球団の監督として采配をふるう、元プロ野球選手工藤公康氏の元トレーナー。

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