
治療や運動指導において、「痛みのある部位を治療しているのに、なかなか改善しない」「症状が再発してしまう」というケースに悩むことはありませんか?その原因は、もしかすると「代償動作」を見落としているからかもしれません。
今回は、代償動作の本質を理解し、隠れた原因を見抜くための理論や動作学を交えながら、実践的なアプローチ方法をお伝えします。
1. 代償動作とは?隠された動きのズレを探る
代償動作とは、本来動くべき関節や筋肉が正しく機能しない場合に、別の部位がその役割を補おうとして生じる不自然な動作です。
動作の本質:全身の連動
人間の体は、単体の筋肉や関節ではなく、全身が連動して一つのユニットとして動きます。ある部位が正しく機能しないと、その動きの不足分を他の部位が補い、結果として不自然な動作が習慣化します。
代償動作が生じるメカニズム
- 可動域制限:特定の関節や筋肉が硬くなると、その不足分を補う動きが他の部位で起こる。
- 安定性の欠如:本来支えるべき部分が不安定だと、他の筋肉が過剰に働きバランスを取ろうとする。
例1:膝痛の場合
- 足首の背屈が制限 → 足首が動かない分、膝が過剰に動き、膝痛を引き起こす。
例2:肩痛の場合
- 胸椎の可動域が低下 → 肩甲骨や肩関節に代償動作が生じ、肩の痛みが発生。
2. 動作学の視点:代償動作をどのように見抜くか
代表動作で全身のつながりをチェック
代償動作は、静的な姿勢では見えにくい場合が多いです。そこで、**代表動作(Functional Movements)**を使い、動きの中で全身のつながりを評価します。
主な代表動作
- スクワット - 股関節、膝、足首の連動性を評価。
- 代償動作の例:膝が内側に入る(ニーイン)、踵が浮く。 - 歩行 - 重心移動や左右のバランスを確認。
- 代償動作の例:骨盤が過剰に揺れる、片側の足だけ外旋する。 - 体幹の回旋 - 胸椎や骨盤の動きを評価。
- 代償動作の例:胸椎が硬く腰で過剰に回旋。
3. 理論で解き明かす代償動作:ジョイントバイジョイントの視点
動作学の重要な概念として、ジョイントバイジョイントアプローチがあります。この理論は、各関節が「可動性(Mobility)」または「安定性(Stability)」という役割を持ち、それらが連鎖的に影響し合うという考え方です。
関節 | 役割 | 問題が起きるとどうなる? |
---|---|---|
足関節 | 可動性 | 背屈制限 → 膝が過剰に動きすぎて膝痛を引き起こす。 |
膝 | 安定性 | 不安定 → 股関節や足首に過剰な負担が集中。 |
股関節 | 可動性 | 硬さ → 腰椎や膝が代償して動きすぎることで腰痛や膝痛を誘発。 |
腰椎 | 安定性 | 不安定 → 胸椎や股関節が硬いときに代償して過剰な動きを起こす。 |
例:股関節の硬さが腰痛を引き起こす流れ
- 股関節が十分に屈曲しない。
- 前屈やしゃがむ動作で腰椎が代償して屈曲しすぎる。
- 腰椎に過剰な負担がかかり、腰痛が発生。
4. 代償動作を解消する実践ステップ
① 可動性を取り戻す
可動性が不足している関節は、モビライゼーションやストレッチで動きを改善します。
- 足首が硬い場合
→ 足関節の背屈モビライゼーションやふくらはぎのストレッチを実施。
② 安定性を強化する
不安定な関節には、筋力トレーニングや神経筋コントロールを用いて安定性を取り戻します。
- 腰椎が不安定な場合
→ プランクやデッドバグで体幹を強化し、コアの安定性を向上。
③ 正しい動作を再教育する
動作パターンを修正し、正しいフォームを患者さんに再学習してもらいます。
- スクワットの再教育
→ 股関節主導で動くフォームを指導し、膝や腰への負担を軽減。
5. 代償動作の重要性を裏付けるエビデンス
動作評価の有効性
研究(Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 2018)によれば、歩行中の骨盤や腰の代償動作を修正することで、腰痛患者の症状が50%以上改善したことが報告されています。
治療と運動の融合の実績
DNS(Dynamic Neuromuscular Stabilization)やPRI(Postural Restoration Institute)などの動作学的アプローチは、代償動作を解消する治療の実績を持っています。
まとめ:代償動作を見抜く力で治療と運動を進化させよう
代償動作を理解し、それを解消するための理論と実践を使いこなすことは、治療家としての価値を大きく高めます。ジョイントバイジョイントや動作学の理論を現場で活用し、患者さんの体全体を見抜く目を養いましょう。「痛みを取る」だけではなく、「動きを整える」治療家へ。 その一歩を今日から始めてください!
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