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整形外科に通い続けるのは本当に良くないのか?

整形外科に長期間通い続ける患者を見ると、「なぜ治らないのだろう?」と思うことがあります。一方で、整形外科通院は単なる治療行為を超えた価値を提供していることも事実です。心理的な安心感や生活リズムの形成、社会とのつながりの維持など、通院には患者の健康や生活に対する多面的な役割があると考えられます。ここでは、BPS(バイオ・サイコ・ソーシャル)モデルを活用しながら、整形外科通院の意義と課題を整理し、医療従事者やトレーナーとしてのアプローチを考えてみます。


整形外科通院が患者に与える価値

1. 症状の軽減(身体的要因)

整形外科では、痛みや障害に対して薬物療法、注射、物理療法などが提供されます。これらの治療は、短期的に症状を和らげ、患者の日常生活を支える重要な役割を果たします。しかし、これらの治療が対象とするのはあくまで「症状」であり、その原因である筋力の低下や姿勢の崩れ、動作パターンの乱れに直接アプローチすることは少ない場合があります。

2. 心の安心感(心理的要因)

通院することで「治療を受けている」という安心感を得られることは、患者にとって大きな心理的支えとなります。医師やスタッフとの会話も、痛みや不安を和らげる一因となるでしょう。ただし、この安心感が過剰になると、患者が「治療を受けていれば大丈夫」という依存的な思考に陥るリスクもあります。

3. 社会的なつながりの維持(社会的要因)

特に高齢者や慢性的な疾患を持つ患者にとって、整形外科は社会との接点を保つ場として機能することがあります。定期的な通院は、外出のきっかけとなり、他の患者や医療スタッフとのコミュニケーションが孤独感の軽減につながります。通院が「生活のリズムを形成する一環」としての役割を担っている場合もあります。


長期間通院の課題とリスク

1. 通院への依存

整形外科通院が生活の一部となることで、患者が「通院しないと不安」と感じるようになり、自立的なケアを怠るリスクがあります。この場合、症状の根本改善が遅れ、痛みの再発リスクが高まる可能性があります。

2. 根本原因の改善不足

痛みや症状の背後には、筋力の低下や柔軟性の欠如、誤った動作パターンが隠れていることがあります。整形外科の治療だけではこれらに十分にアプローチできない場合があり、症状が慢性化する要因となります。


医療従事者・トレーナーができるアプローチ

1. 患者教育を通じた意識改革

患者が通院に過度に依存しないよう、症状の原因やセルフケアの重要性を説明することが必要です。治療後の自宅でのストレッチや簡単な運動を指導し、患者が主体的に健康を管理できるようサポートします。

2. 痛みの原因に対する包括的アプローチ

患者の姿勢や動作パターンを分析し、治療に運動療法を組み合わせることで、根本的な原因を改善します。例えば、慢性的な腰痛患者には、骨盤の位置を整える体幹トレーニングや股関節の可動域を広げるエクササイズを提案します。

3. 社会的支援の補完

患者の社会的な接点を広げるため、グループ運動や体操教室など、患者同士が交流できる場を提案します。また、整形外科の治療後にリハビリや運動プログラムを紹介し、患者が新しい健康習慣を築けるようサポートします。


おわりに

整形外科に通い続けることは必ずしも悪いことではありません。通院には痛みの軽減だけでなく、患者の心理的・社会的な支えという重要な価値があります。しかし、医療従事者やトレーナーとしては、患者が通院に依存しすぎないよう導き、根本的な原因を改善するためのアプローチを提案することが求められます。整形外科と運動療法が連携することで、患者にとってより包括的なケアが実現するでしょう。


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長島康之

長島康之

健康であれば、何でもできる。

長島康之 (ナガシマヤスユキ):柔道整復師(国家資格)。 株式会社nicori代表取締役(nicoriGYMとnicori整骨院を運営)。 現在はプロ野球球団の監督として采配をふるう、元プロ野球選手工藤公康氏の元トレーナー。

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