事例紹介

運動が嫌いな不健康な人へのアプローチ:心理学的理論と実践例

「運動が嫌い」「動きたくない」と言われたとき、施術者やトレーナーはどう対応すべきか。
運動嫌いな人へのアプローチは、身体面のケアだけでは解決しません。心理学や行動科学の知見を活用し、その人の心に寄り添いながら適切なステップを提供することが必要です。本記事では、具体的なケースを交えながら、運動が嫌いな人への対応を専門的かつ実践的に解説します。


ケース1:50代女性、慢性腰痛で運動嫌い(イメージ)

背景と悩み
50代女性。慢性腰痛に悩み、治療で痛みを軽減することを希望するが、「運動は嫌い。治療で楽になればそれでいい」と話す。軽い動きを提案すると、「面倒だからいいです」と拒否されることが多い。

対応の方向性

  • 運動に対する心理的なハードルを下げる。
  • 日常動作とつながる簡単な動きを提案し、「運動」という意識を持たせない。
  • 痛みの軽減と動きやすさを感じてもらうことで、自発的な行動を引き出す。

1. 心理学的アプローチ:自己決定理論(Self-Determination Theory)

自己決定理論では、運動を含むあらゆる行動の動機づけには以下の3つの基本的な欲求が満たされる必要があるとされています。

1.1 自律性(Autonomy):自分で選んで行動する感覚

「やらされている」という感覚はモチベーションを下げる一方で、「自分で選んだ」と感じられると行動が続きやすくなります。

アプローチ:

  • 選択肢を与える
    「椅子に座って足を軽く動かすのと、ソファから立ち上がる動きを少し意識するの、どちらが楽そうですか?」
  • 提案にとどめる
    「動かなくてもいいですよ。ただ、これをやると腰がもっと楽になるかもしれません。」

1.2 有能感(Competence):自分にはできるという感覚

「私には運動なんて無理」と思っている人に対して、簡単な動きで成功体験を積ませることが重要です。

アプローチ:

  • 難易度を極限まで下げる
    「ソファに座ったまま足を軽く前後に動かすだけでも十分です。」
  • 具体的に褒める
    「その動きができるのは、足首と股関節がしっかり働いている証拠ですね!」

1.3 関係性(Relatedness):人とのつながり

人との共感や支え合いは行動を促進する大きな要因となります。

アプローチ:

  • 家族や友人を巻き込む
    「ご家族も一緒にやってみると楽しいかもしれません。」
  • 共感を示す
    「運動が嫌いな方、本当に多いですよね。実は私も以前はそうでした。」

2. 行動変容ステージモデル(Transtheoretical Model)を適用する

運動嫌いな人がすぐに行動を起こすことは難しいため、現在の状態(ステージ)を見極め、それに応じたアプローチを取ることが重要です。

2.1 無関心期(Precontemplation Stage)

状態: 運動の必要性を感じていない段階。「運動なんて無理。やりたくない。」

ケース例:
「私は昔から動くのが苦手なんです。」

対応:

  • 動きを強要せず、「日常生活の中で楽になる方法」を提案する。
  • 「椅子からゆっくり立ち上がるだけで腰が楽になりますよ。」

2.2 関心期(Contemplation Stage)

状態: 運動した方がいいのは分かるが、行動には至っていない段階。

ケース例:
「最近、階段を上るのがしんどいです。」

対応:

  • 動きの具体的なメリットを示す。
  • 「足首を少し動かすだけで、上り下りが楽になるかもしれませんよ。」

2.3 準備期(Preparation Stage)

状態: 簡単なことなら試してみようと思っている段階。

ケース例:
「簡単なことならやれるかも。」

対応:

  • ごく簡単な目標を設定する。
  • 「1日1回、椅子からゆっくり立ち上がる練習をしてみましょう。」

実際の対応:ケーススタディ

ケース1:50代女性、慢性腰痛

  • 問題点: 「運動は嫌い。治療で腰が楽になればそれでいい。」
  • 対応: 治療で腰の痛みを軽減した後、「ソファから立ち上がる時に、足裏に意識を置くともっと楽になりますよ」と提案。自宅では「椅子に座ったまま足を軽く動かすだけで十分」と伝える。
  • 結果: 腰痛が改善し、「少し歩いてみようかな」という意欲が出てきた。

ケース2:40代男性、肥満で体力に自信なし

  • 問題点: 「運動するとすぐ疲れる。無理です。」
  • 対応: 「呼吸法なら疲れずにできますよ」と深呼吸を提案。次に「階段を少しゆっくり上る動作」や「足首をほぐすストレッチ」を追加。
  • 結果: 深呼吸と軽い動作を続け、少しずつ動ける習慣ができた。

おわりに

運動嫌いな人へのアプローチは、心理的な安全性と身体の負担軽減を両立させることが鍵です。「無理をさせず、現状を受け入れながら、本人ができることを少しずつ広げる」。この柔軟な姿勢が、トレーナーや施術者に求められる役割です。

心理学の知見を活用し、成功体験を積ませながら、本人のペースで健康への一歩をサポートしましょう。運動が嫌いでも、健康は作れる。その可能性を一緒に見つけていくことが私たちの使命です。

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長島康之

長島康之

健康であれば、何でもできる。

長島康之 (ナガシマヤスユキ):柔道整復師(国家資格)。 株式会社nicori代表取締役(nicoriGYMとnicori整骨院を運営)。 現在はプロ野球球団の監督として采配をふるう、元プロ野球選手工藤公康氏の元トレーナー。

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